太宰治「富嶽百景」を読む






2 沼津からの富士



 けれども、実際の富士は、鈍角も鈍角、のろくさと拡がり、東西、百二十四度、南北は百十七度、決して、秀抜の、すらと高い山ではない。

たとへば私が、印度かどこかの国から、突然、鷲にさらはれ、すとんと日本の沼津あたりの海岸に落されて、ふと、この山を見つけても、そんなに驚嘆しないだらう。ニツポンのフジヤマを、あらかじめ憧れてゐるからこそ、ワンダフルなのであつて、さうでなくて、そのやうな俗な宣伝を、一さい知らず、素朴な、純粋の、うつろな心に、果して、どれだけ訴へ得るか、そのことになると、多少、心細い山である。

低い。裾のひろがつてゐる割に、低い。あれくらゐの裾を持つてゐる山ならば、少くとも、もう一・五倍、高くなければいけない。




(1)何故、沼津あたりの海岸


太宰治は富士山のすそ野は「のろくさとと拡がり」と嫌悪しており、なだらかなすそ野の美しさを、全く感じないようです。私は富士山の美しさの半分はすそ野の美しさと思っています。「富嶽百景」は富士山のすそ野の美しさを感じない人が書いた小説です。

「たとへば私が、印度かどこかの国から、突然、鷲にさらはれ、すとんと日本の沼津あたりの海岸に落されて、ふと、この山を見つけても、そんなに驚嘆しないだらう。」


ここで何故、印度にいる太宰を沼津あたりの海岸を連れてきて富士山を見せることにしているか。

印度では富士山はほとんど知られていないということか。
また、「三国一の富士山」とは「世界一の富士山」ということです。日本には14世紀以降の室町時代から「三国一(さんごくいち)」という言葉があり、三国とは日本と唐土、天竺(てんじく)で、現在の日中印3カ国を指します。その中の印度に育った人物にに見てもらいたいということか。

また、沼津当たりの海岸を何故選んだかがわからない。沼津は下記の図で見るように富士山と沼津の間に愛鷹連峰があり、富士山は愛鷹連峰の上に山頂が見えるだけである。秀峰富士と言われる富士山ではない。
鷲が、インドから太宰を富士山が立派でないところに処に連れて行って「大した富士山ではないだろう」と言わせるような文章です。

太宰がこの辺りの富士山をあまり知らないための文章とすると、沼津の左端の原付近から愛鷹連峰の上に秀麗な富士山が見える。ここら辺からの富士山は、広重「東海道五十三次 原 朝之冨士 」で描いかれていて有名です。ここからの富士山なら「原あたりの海岸」と書くべきです。



 
沼津駅からの富士山

富士市田子の浦の手前からの富士山、富士山の高さは1.5倍   富士山の頂角90度

 原駅左側で富士市との境目からの富士山

原駅左側で富士市との境目からの富士山




(2)田子の浦海岸がいい



原よりもっと東に行くと、富士山の展望に優れた富士市が有る。田子の浦海岸から富士山が丸見えです。ニッポンのフジヤマをほとんど知らない印度に住んでる人に見せるににはこのフジヤマが良いと思う。

田子の浦は富士山の真南にあります。そのため、富士山の頂角は115度と最も小さい値になります。


太宰治が推薦する富士山の高さ1.5倍に富士山も表示します。富士山の頂角は91度です。


ここからは、各人の好みによりますが、太宰治は高さ1.5倍の富士山が良いといいます。
私は実際の富士山の方を好みます。1.2倍ぐらいも良いかもしれませんが、1.5倍の富士山は、違和感があります。山頂がとんがりすぎています。通常の富士山を見慣れたためかもしれません。この田子の浦の手前からのフジヤマなら印度人もワダフルというとおもいます。



富士市田子の浦の手前からの富士山  富士山の頂角115度

富士市田子の浦の手前からの富士山  富士山の頂角115度




富士市田子の浦の手前からの富士山、富士山の高さは1.2倍   富士山の頂角103度

富士市田子の浦の手前からの富士山、富士山の高さは1.2倍   富士山の頂角103度




富士市田子の浦の手前からの富士山、富士山の高さは1.5倍   富士山の頂角90度

富士市田子の浦の手前からの富士山、富士山の高さは1.5倍   富士山の頂角90度

富士市からの富士山頂角115度



富士市田子の浦の手前からの富士山、富士山の高さは1.2倍   富士山の頂角103度
 富士市田子の浦の手前からの富士山、富士山の高さは1.5倍   富士山の頂角90度








三ツ峠山からの富士山



参考に、三ツ峠山からの富士山とその富士山を1.5倍にした富士山を示します。私は三ツ峠山からの富士山も、高さ1.5倍より.実景を好みます



 
三ツ峠山からの富士山  

三ツ峠山からの富士山


三ツ峠山からの富士山、富士山の高さは1.5倍   

三ツ峠山からの富士山、富士山の高さは1.5倍
三つ峠山からの富士山頂角118度 三ツ峠山からの富士山、富士山の高さは1.5倍頂角96度












イラスト、浮世絵の富士山の頂角



頂角120度の富士山。高さだけ1.5倍にした富士山の頂角は100度、高さだけ2倍にした頂角は80度です。
実際の富士山を広重や、文晁の頂角85度にするには約2倍ほど高くなければいけない。



イラスト、浮世絵の富士山の頂角の変化は、実際の富士山の頂角の変化と異なった印象を受けます。





富士山の頂角120度 富士山の頂角120度
富士山の頂角100度 富士山の頂角100度
富士山の頂角80度 富士山の頂角80度



高さだけ0.5倍の「山下白雨」




北斎 富嶽三十六景「山下白雨」
北斎富嶽三十六景「山下白雨」
北斎富嶽三十六景「山下白雨」の頂角



反対に高さだけ0.5倍に変形した「山下白雨」 富士山の頂角は115度で実景で見る富士山です。
私は変形しない富士山の頂角は76度の「山下白雨」を好みます。


浮世絵で見る場合実景と同じにすると違和感が出るようです。


高さだけ0.5倍の「山下白雨











「三国第一山」は富士山は世界一の山であることを表現した言い方です。

三国とは日本と唐土、天竺(てんじく)で、現在の日中印3カ国を指し、古くは”全世界”を意味する言葉として使われていました。

「三国第一山」という扁額は、多くの浅間神社で見ることができる。



新倉富士浅間神社の鳥居

新倉富士浅間神社の鳥居    三国第一山



日本各地に10山以上ある三国山は世界一の山ではなく、(旧制の)3つの国にまたがって位置していることが名称の由来になっていることが多い。

山中湖付近にある三国山(みくにやま、1343m )は神奈川県足柄上郡山北町と山梨県南都留郡山中湖村と静岡県駿東郡小山町の境界にある山。
(旧制は相模国・甲斐国・駿河国)