1 葛飾北斎画「富嶽三十六景 本所立川(ほんじょたてかわ)」は北斎の騙し絵です。
(1) 葛飾北斎画「富嶽三十六景 本所立川」
(2) 葛飾北斎画「富嶽三十六景 本所立川」の解説
WEBで葛飾北斎「富嶽三十六景」を見られるサイトは、多くあります。そこでの「本所立川」の作品解説を記載します。解説が長いところは、騙し絵に関係する「木材受け渡し」を部分引用しました。
本所立川東京都墨田区緑四丁目.。立川は運河の堅川のことです。この運河が隅田川に交わるあたりには、材木問屋の材木置き場が多くありました。製材された丈の高い材木の間から小さく遠慮したような感じで富士が見えます。
一方、木片を投げている人、それを受取ろうと構える人、鋸を挽く職人などの表情は生き生きと描かれています。
小さく見える富士以外、殆どは直線で構成されています。材木置き場の看板に「西村置場」、材木に「永寿堂仕入」「新板三拾六不二仕入」と書き込み、版元と本シリーズの宣伝をしています。
本所立川 - 葛飾北斎 「富嶽三十六景」解説付きより引用
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現在の墨田区に位置する本所立川には当時多くの材木問屋があった。明暦の大火の以後、火事が起きた際に建替えで必要となる材木がここに蓄えられていたという。本図では材木置場に立てられた無数の材木の向こうに富士が顔をのぞかせている。また、中央で木挽きをする人をはじめ、材木を高々と放り投げる人、それを受け取る人などそれぞれの職人の動きに北斎の巧みな人体表現を見ることができる。
冨嶽三十六景 本所立川 | 葛飾北斎 | 収蔵品詳細 | 作品を知る | 東京富士美術館より引用
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大判錦絵 天保2年(1831)頃
材木が立ち並び、それを加工する職人や、木材を積み上げる職人たちが描かれています。威勢のいい掛け声が聞こえてきそうなこの場所は、現在の墨田区南部にあたる立川(堅川)で、北斎が生まれ育った本所割下水は、この近くです。川沿いに多くの材木問屋が立ち並ぶ場所でした。右手に描かれた材木置き場の表札には「西村置場」とあります。西村は、本シリーズを出版した版元西村屋与八のことで、その左右には本シリーズの新作を売り出したという宣伝文句が書かれています。
すみだ北斎美術館 - 冨嶽三十六景 本所立川 |
葛飾北斎「富嶽三十六景」は多くの書籍が出版されています。その中から「富嶽三十六景」の研究者二名の解説。
画面左上、塔のように積み上げられた材木の上にいる男は、下の男が高く投げた薪を受け取ろうとしているのであろう。それを一つ一つ隙間なく綺麗に積み重ねている。北斎は「江戸駿河町三井見世略図」においても、資材を投げ渡す職人を描いているので、画面に動きをもたらすこのような人物たちの描写を好んでいたようだ。
日野原健司編「北斎 富嶽三十六景」 岩波書店 2019年刊」より部分引用
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材木の林からかいま見る富士
立川は運河の堅川のこと。この運河が墨田川の交わるあたりには、材木問屋の材木置き場が多くは有った。この図では、「西村置場」の表示があり、材木の墨書にも、「新板三十六不二仕入」など、ちゃっかりと版元の宣伝が描きこまれている。北斎は材木や積み上げた薪の高さを誇張した。鋸引きされる材の向きが、材木に隠れた富士を指し示す。
大久保純一 「千変万化に描く 北斎の富嶽三十六景」 小学館 2005年刊より引用
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北斎「富嶽三十六景」は、「当時の江戸の人々の好んだ、戯け・滑稽・言葉遊び・駄洒落などの明るいユーモアがふんだんに描き込まれています。」という観点から各作品を検討し解説しています。
はじめに:北斎「富嶽三十六景」には、当時の江戸の人々の好んだ、戯け・滑稽・言葉遊び・駄洒落などの明るいユーモアがふんだんに描き込まれています。
・・・・・・・
この画の左下で、小さな木片を上へ投げあげている職人は、2本の木片を同時に見事に投げあげております。一方、左上で木片を受け止めている職人も、2本の木片を同時に見事に受け止めております。まさに両名とも、名人芸というべきでしょう。では、この木片の山には、いったいどれほどの木片が積まれているのでしょうか。ざっと概算しただけでも小さな木片が一万片以上は積まれております。一体この様な小さな木片を、このように高く積み上げることなど、はたして可能でしょうか。不可能です。この木片の山は、とっくに崩れ落ちているはずです。
後半:木材置き場なのに雨にあたり乾燥できないのはとんでもない。
正真解説 有泉豊明「葛飾北斎 富嶽三十六景を読む」株式会社目の眼発行 平成二十六年より部分引用。
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(3) 『本状立川」の木材受け渡し
下の職人が上の職人に木材を投げ上げるているように見えます。
下の職人が「いくぞ〜」と声をかけ、上の職に向けて材木を思い切り投げる。上の職人は「はいよ〜」と材木を受け取る体勢に入る。その一瞬を描いているようです。
「下の職人が「いくぞ〜」と声をかけ、上の職に向けて材木を思い切り投げる。上の職人は「はいよ〜」と材木を受け取る体勢に入る。」
と読者に思わせているのは、次の三点です。(図2参照)
(1)中間に二片の木材が有るので、二人は木材の受け渡しをしている。
(2)下の職人の視線は上の職人の目を捉えて材木を投げている。(図2の紫線)
(3)材木は放物線を描き上の職人の両手の真ん中に上げられている。(図2の赤線)
威勢がいいね さすが立川の職人
2個の材木を縛らないで投げるのはとんでもない
職人がいる木材の高い塔は震度一の地震で崩れるね
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図2 「本所立川」の木材の受け渡し部分
の材料軌道と視線 |
(3) 『本状立川」の木材受け渡しは騙し絵
ここで、じっくりこの木材受け渡しの図2を眺めます。
なにかおかしい。いったん頭のなかで描いた紫色の視線と投げ上げた木材の赤い軌道の線を消します・
下の図3のように木材の塔の高さを半分ほどにします。
下に職人の紫色の視線が、木材塔の上の顔をとらえていないようだ。
下の職人が投げ上げた木材は上の職人の横を通て上の方に飛んでいくようだ(赤線)
下に職人・・上の職人の顔が見えない
上の職人・・木材はどこ、最初から見えないぞ
う〜〜〜む
北斎の描き方がわかってきたぞ
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図3 「本所立川」の木材の受け渡し部分
の材料軌道と視線 |
図4のように上の職人のいる木材の塔の高さを、下の職人のいる場所とほぼ同じ高さにします。
これで北斎の意図がわかりました。
ありゃ〜
二人は逆に方向をみて立っている
上の職人が木材を受け取れたら奇跡だ
北斎先生、よくぞこのわしを騙した
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図4 「本所立川」の木材の受け渡し部分
の材料軌道と視線 |
(4)下の職人と上の職人の立っている位置と視線の図解
図2の木材職人の位置と視線を真上から図示すると、図5のようになり、上記の三点が錯覚であることがわかります。
下の職人は上方を向き、上の職人は下方を向いています。下の職人の視線は上の職人の目を捉えることはできません。上の職人を見ないで木材を投げています。木材を上の職人に向けて投げているとしたら、黄色で描いた軌道になり、上の職人の手の中に入るにはかなり難しい軌道になります。
上の職人の顔は右向きで明らかに下の職人を見ておらず、手を伸ばす方向は木材が来る方向ではない。下の職人が投げ上げた木材を受け取ろうとする意思は全く無い。
二人の職人は真剣に木材の受け渡しをしていないようです。真剣に材料の受け渡しを行える位置にいません
この二人の職人が何をしているかわからない図2は、北斎が読者を騙すために描いたとしか考えられません。北斎の遊び心です。
(5) 「本所立川」の木材受け渡しの正しい描き方。
北斎は、図6の「働く屋根屋」で瓦の受け渡しを描いています。これが正しい物品の受け渡しと思います。下の職人は上の職人を見ながら左腰の辺りから上の職人に向けて瓦を放り投げている。上の職人は下の職人の投げる姿を見て瓦を受け取ろうとしています。
これに基づき、「本所立川」の木材の受け渡しの図を訂正すると次のようになります。図7は、上の職人の向きを変えて、視線と両手の方向を、下の職人の方に向けました。これだと、木材を受け取ることができます。図8は、下の職人の位置を手前にもってきました。この位置から投げると、木材は上の職人の手の中に入りそうです。上の職人も木材の位置を確認しながら受け取ることができます。
「働く屋根屋」は1830(天保元)年発行で、「本所立川」の前に発行されているので、これの基づき描くとすると図7のようになると思います。やはり、「本所立川」では、読者をだますことを目的に木材受け渡しの図を描いたと思います。
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上の職人90度左側へ向く |
下の職員90度位置を変える
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図6 働く屋根屋
短冊判、1830(天保元)年
「伝記画集 北斎」 p179
リチャード・レイン著 竹内泰之訳1995初版より引用
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図7 上の職人の向きを変更 |
図8 下の職人の位置を変更 |
(5) 「本所立川」のは騙し絵ではないという江戸の物知り
*江戸の人物と北斎は葛飾北斎 - Wikipediaより引用
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